2017 | 2_16 | Thursday
Nils Palmgren著 Wilhelm Kåge
スウェーデンの陶芸研究家、ニルス・パームグレン著のWilhelm Kågeです。1953年刊で既に絶版でして、スウェーデンの工芸の父でもあるウィルヘルム・コーゲの生涯をまとめた希少な書籍です。ニルス・パームグレンの来歴は詳しくはわからないのですが、中国古陶磁や朝鮮古陶磁の著名研究家でありコレクターで、氏がコーゲをまとめた書籍を出版したことは、当時大変に名誉でもあったようです。全てスウェーデン語で書かれており、ほとんど読めませんが、かなり豊富な資料と図版があり眺めていても楽しめます。
コーゲはもともと画家でしたので、油絵作品やデッサン、数々のポスター作品が掲載されています。全ては活躍をした1900年から10年代あたりのものです。カラー図版は別刷りで貼られているのが時代を感じます。
その後、グスタフスベリに招来され、アートディレクターへと就任します。初めはマヨリカ陶器やデルフトのような素地に、絵付けを施す作品がメインだったようです。
1930年代にはベルント・フリーベリが加わり、轆轤の作品レベルが格段に上がります。お写真右上が当時のフリーベリです。エメラルドグリーンの素地に、銀彩の装飾を施すArgenta(アルゲンタ)シリーズの制作をしている写真で、30年代に万博や国際的な展覧会へ出品をして、数多くの賞を受賞しました。
30年代の作品たち。陶芸の一点物シリーズであるFarsta(ファシュタ)シリーズよりもArgenta(アルゲンタ)シリーズが主力だったようで、古代エジプトの壁画や、中国の青銅器などをエッセンスに、独自の感性でミックスした荘厳で神秘的な作品が目を引きます。この時代のファシュタシリーズも同様に緑釉を使ったプリミティブな文様の作品が多く、こちらも大変に美しいものです。
そしてスティグ・リンドベリも参加をし、絵付けの作品を二人で行います。フリーベリも然りでして、このコーゲとの共同作業が、彼らに美の曲線を覚えさせ、後の芸術を生み出す才能を開花させたように思います。
1945年にはコーゲ、フリーベリ、リンドベリの師弟三人展をNKデパートで開催をします。これはコーゲの出品作を三人で鑑賞する写真。この展覧会時点から三人の作風は一変し、より独自色や芸術色が強くなります。
50年代にはよりオブジェ色が強まり、コーゲの中でも最高傑作たちが数多く生み出されます。フリーベリもミラノトリエンナーレで金賞を立て続けに受賞し、共同作業の精緻さ芸術度は極致に至りました。器には写真には写らない霊性のようなものが備わり、凄まじいオーラを放ちます。もう二度とこのような作品は生まれないと思うと残念ですが、まだまだ手にできるという喜びがあります。改めまして偉大な父、コーゲに感銘であります。
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2017 | 2_7 | Tuesday
「北欧の陶芸とテキスタイル」 京都国立近代美術館コレクション展
京都国立近代美術館に於きまして「茶碗の中の宇宙」樂家一子相伝の芸術展も大盛況でありますが、同時開催のコレクション展にて、「北欧の陶芸とテキスタイル」が開催をされているとの情報をお客様方よりいただきまして、急ぎ伺ってまいりました。
真ん中に鎮座するのは、大きなベルント・フリーベリやスティグ・リンドベリの花器、そしてサクスボーの柿釉碗で、特にこのサクスボーのお茶碗は、本歌と見紛う美しさと出来の優品です。全て愛知県陶磁美術館にて2013年に開催をされました、モダニズムと民藝 北欧のやきもの展に出展をされた作品たちでして、今回の展示はその出展作品を中心に構成をされており、暫しの時を経た逸品たちとの邂逅に、思わず足が止まり食い入るように見つめます。
スウェーデンのシルヴィア・レウショヴィウスの作品たち。60年代のロールストランドの作品で、54年のミラノトリエンナーレでは銀賞を受賞した作家でもあります。女性作家らしい感性で、フィンランドのアラビアアートデパートメントの作家たちとも通じる作風が魅力です。
こちらもスウェーデンの作家、ヘルタ・ヒルフォンの60年代のオブジェ作品。ニヒルに微笑む唇です。彼女は北欧ではもっとも権威のある賞、ルニング賞を受賞しています。アメリカンポップアートのようなオブジェ作品も多く、陶芸というよりも彫刻家の様相が強い作家さんです。
フィンランドはアラビア社のアラビアアートデパートメント所属作家の作品たちや、ノルウェーの作品たちがずらりと並びます。どれも大きな作品ばかりです。
アラビアアートデパートメントに所属の作家、リーサ・ハラマー・ヴィルデンの大皿。美しさと風格が共存し、まるで北欧の寒い夜空を見上げたような独特の釉の表情に、思わず引き込まれる作品です。
アラビアアートデパートメントに所属の作家、ライヤ・トゥミの巨大な花器。こんな大きな作品が存在するのも驚きで、2013年の「モダニズムと民藝 北欧のやきもの」展には出展されていなかった、ここでしか見れない希少な作品。マットで凹凸のある複雑な青の表情が魅力です。
こちらもアラビアアートデパートメントに所属の作家、フリーベドル・ホルチェル・チェルベリの大皿作品。2013年の「モダニズムと民藝 北欧のやきもの」展には、辰砂釉のような別の大皿が出展されており、こちらの青い大皿作品は初見であります。透き通る氷河を見るような、大変に透明感のある青が美しく、また口縁も極薄手で、まるで薄氷をそのまま持ってきたかの様です。
お馴染み、スウェーデンはロールストランド製陶所のアートディレクター、カール・ハリー・スタルハーネの作品たち。中国陶磁器に強く影響を受けた作家で、もともと画家なので自らは作陶を直接しませんでしたが、こちらは展覧会などに出展をする際に、職人と二人三脚で製作をした一点物の陶芸シリーズが並びます。
2013年の「モダニズムと民藝 北欧のやきもの」展では、稜線から流れるこの釉に引き込まれた、見事な鉢作品。以外にも大振りな作品でしたが、美しさと存在感が共存しており、何とも良いものです。
真っ黒な釉の合間に、深く濃い藍の釉が流れ、コントラストと緊張感がある作品です。まるで夜空の流星のようで、その吸い込まれる感覚にずっと眺めてしまいます。
さらに大振りな大皿作品。これも初見の作品でした。ダイナミックに流れる釉が大変に見事であります。
テキスタイルは詳しくないのですが、細かくチリチリと縮れた縮緬のような質感と、深く鮮やかな色味が、まるで抽象絵画のようで、独特の佇まいが特徴です。壁で楽しむものでしょうか。さすがにこれはラグとして下に敷けないなと、貧乏根性を感じてしまうところがお粗末様です。
このような北欧陶芸作家たちのコレクションを、日本工芸の代表の地でもあります京都において、50年代〜60年代当時より収蔵しておりました、京都国立近代美術館の眼と造詣の深さはとても面白いものでして、今後も定期的に収蔵品たちを、公の場に公開をしてもらいたいものであります。他にもコレクション展の工芸セクションでは八木一夫の作品も展示されており、60年代モダニズム工芸の逸品たちを楽しむことができます。展示期間のお時間が迫っておりまして恐縮ですが、2月12日(日)までの展示ですので、お近くにお越しの際はぜひご覧になってみてくださいませ。
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