ウェブ展覧会の第8回目は、「John Anderson(ジョン・アンダーソン)とSven Hofverberg(スヴェン・ホフワルベリ)」と題しまして、スウェーデン陶芸でも轆轤から釉薬まで全て一人で担当した作家たちで、陶芸技術の技が光る二人をご紹介させていただきます。
ジョン・アンダーソン(1899年〜1969年)は、スウェーデンの古くから窯業の盛んな街、ホガナスで生まれました。
ホガナスには伝統的なホガナス製陶所があり、彼も13歳からホガナス社でアシスタントとして働き始めました。
1924年からホガナス社のアートディレクターに就任すると、陶芸のみならず、デザインや企画販売までも手がける様になります。
以前にも数点、彼の作品をご紹介しておりますが、全て轆轤作りの一点物のためか、作品の魅力が高く、
即完売となってしまうほど人気が高い作家でもあります。
アンダーソンの作品は、スウェーデン国立美術館に所蔵されております。
実はベルント・フリーベリとは同じ年で、同じホガナス生まれ、
そしてホガナス社で働き始めたのも同じ年で、共に轆轤工というアンダーソンは、
当然お互いを知る存在だと思われますが、同期のフリーベリをどの様に考えていたのでしょうか。
もしかすると強力なライバルとしてお互い切磋琢磨した存在なのかもしれません。
1924年からホガナスのアートディレクターに就任したアンダーソンは、
ホガナス社の黄金期、40年代から50年代の立役者として活躍します。
一方で、フリーベリはホガナスで働き始めた後、34年にグスタフスベリに招待されますが、
自身のスタジオを持てるのは、42年からで、世界的な賞を受賞するのは40年代後半からになり、
アンダーソンとは当初、キャリアに大きな差が開いている様に思います。
特にアンダーソンの代表的な作品は、50年代から作られているミニチュア作品で、
現在でも市場で多く見かけるほど多作です。
不思議とフリーベリもちょうど同時期に、ミニチュア制作を開始しております。
もしかするとフリーベリは彼の作品を見て、自分の方がうまくできると、
ミニチュア作品を制作し始めたのかもしれませんし、またその逆も考えられます。
当時の作家たちはあまり多くを語らないため、推測ではありますが、
同じ出身地の同期の二人の作風やキャリアの共通点に、
北欧陶芸が世界的に花開いた理由が、この二人のジェラシーにあるのではと感じずにはいられません。
まさにライバル同志の戦いが、お互いの技術をより高めるきっかけになったのではないでしょうか。
今回のアンダーソン作品は、彼の代表作のミニチュア作品や、
30年代からのヨーロッパ調の花瓶作品のご紹介ではなく、
東洋古陶磁に影響を受けたお碗などの作品を中心にご紹介いたします。
不思議なのですが、彼のヨーロッパ調の作品の中にごく稀に、
東洋古陶磁シリーズが存在しておりまして、数百点に一点ぐらいの確率でしょうか。
その作品たちにどうしても惹かれてしまい、15年以上前から少しづつ集めてきたものを、
今回ご紹介させていただきます。
もう一方の作家、スヴェン・ホフワルベリ(1923年〜1998年)は、スウェーデンの作家で、
アンダーソンよりは一世代後の陶芸家です。
陶芸学校で学び、製陶所でキャリアをスタートさせた後は、
北欧ではかなり珍しく、自身の個人スタジオを、海辺に面した要塞のある街として有名な、
ランツクルーナで立ち上げます。
海外には元々、陶芸家という職業がなく、
モダニズムの作家たちが轆轤職人から作家となり、
世界的賞を受賞することで、陶芸がアートであるとようやく認知され始めた時代で、
多くの作家は大きな会社に所属する会社員でもありました。
ホフワルベリは自分でスタジオを立ち上げるという選択に出たのは、
とても大きな決断であったと思います。
会社所属の場合は、土や釉薬、機材などを自由に使うことができますが、
組織の中では、自分の思い通りの作品を作ることは、なかなか難しく、
己を貫いた結果が、ホフワルベリ作品に色濃く現れているのではと感じます。
自身のスタジオでは轆轤の技術と釉薬の研究に邁進を続け、
まるで備前焼の様な素地の上から、キラキラと輝くラスター釉を流し掛けた、
緩急合わさった独特な作品を完成させていきました。
作品全体にはどことなく、東洋古陶磁を感じさせますが、
ペルシャやエジプトなどの中東の風も感じられる、唯一無二の作風でして、
轆轤の技術が達者なのか、曲線にはアート作品たる、
しなやかな柔らかさ、そして強さを感じます。
作品はスウェーデン国立美術館に所蔵されております。
ホフワルベリ作品も、手取り良いサイズ感や、形、表情など、
陶芸作品として面白い作品が、ごく稀に存在しておりまして、
15年前から少しづつ集めてきたものを、今回一挙にご紹介させていただきます。
どちらの作家も、巨匠と呼べる物故作家の一人ではありますが、
昨今かなり高騰してるモダニズム巨匠作家たちに比べますと、
かなりリーズナブルで、お気兼ねなく使って楽しむことができます。
昔、フリーベリなどをご紹介した時の様に、
力ある北欧陶芸を日々使う楽しさや、新しい美の発見を、
今一度、皆様には感じていただければ幸いでございます。